お店はどこでされているんですか?と外で問われると、
「神戸の和田岬で」と答えます。
兵庫というより、和田岬のほうが場所を特定しやすいかと思って使う地名ですが、
厳密にいえば店は和田岬という地域に入れるのか・・・?と思うくらい、和田岬のエリアの端っこです。
けれども、和田岬と言えば【北の椅子と】と思ってもらえたら嬉しいくらい、和田岬のことが好きになりつつある昨今、
和田岬好きを語るには浅すぎる、と叩き切られた一夜がありました。
それは、北の椅子と を会場に地域の自慢?を写真とトークで繰り広げる対抗戦イベント。
「ちいきいと」の夜。
対戦相手は、春日野道と塩屋。どちらの代表も、根っからの地元っ子。愛が違いました。
でも、皆の優しさに拾われて、和やかな会に、楽しく、飲みもしないお酒に酔っぱらったような夜でした。
イベント会場に推薦いただいた時に、参戦も受けてしまい、軽い気持ちで引き受けた「和田岬」代表。
と言っても、小さなころから父の会社のある和田岬には通い続けてきておりますが、生まれも育ちも別の場所のわたし。
幼いころの記憶をたどったり、老若男女尋ねて回ったり、文献を読んだりして地域ネタを拾うこととなりました。
市電が走り、和田岬線には「カネボウ病院前駅」があったような昭和の中ごろまでは、ドアもないディーゼル列車に人は溢れんばかり。
兵庫運河には丸太が浮かび、その上を材木屋が飛ぶようにわたる。
製糖、製材、製油、製粉と造船、青物市場が運河の周りを囲み、泥臭くもたくましい和田岬のイメージは、
現在は皆の記憶の中だけで、その影が薄い。
けれども、子どもと道を歩けば方々から声がかかり、ちょっと変わった自転車を停めているとおじさんおばさん子どもからも質問攻め、
うちの犬が逃げ出したとなれば誰かがあっちにいたよと連れて帰ってきてくれる。
やはり泥臭く、たくましい時代を経てきたからこその温かみがあり、賑やかさがある。
そんな中に店を開き、地域の人にも来てもらえるありがたさ。
改めて、そのありがたさと、和田岬への思いを知った11月の最終土曜には、「ちいきいと」では対戦相手だった塩屋へ。
素晴らしかった。
11月の一か月を「しおさい」と題し、幼稚園・小学校・商店会・・・・、町中の人を巻き込んで文化祭。
その文化祭を締めくくる「あとのまつり」の歩き回り音楽会に参加した。
漁港から山のほうへ、塩屋の狭い道を歩いて1時間半の間にいろんなところから出てくる音楽家。
聞けばみんな塩屋住人で、家族だったり、サークルだったり、教室だったり、プロだったり。
身内のノリではなく、外からいた私たちや友人親子、その日初めてそんなことをしていると知った町民も楽しめた。
ゴールはスタート地点を見下ろす小高い丘でその場に参加する子どもも交えての大合奏。塩屋の町も好きになってしまっていた。
土地の事を知って、自分の足で歩いてみると、いつの間にかその土地のことを好きになっている。
小学三年生の授業のようだが、こうして皆土地とつながり、大切にしたい場所ができるのだと。
「北の椅子と 和田岬にございます。」
2014年12月 北の椅子と 服部 真貴
リンゴの季節がやってきた。10月は大好きな紅玉を、毎日のようにいただいた。
あの、固くて酸っぱい、加熱した方がきっとおいしいであろう紅玉を私も息子もそのまま食べる。
秋の深まりを、口いっぱいに広がる甘酸っぱさとともに満喫する。
そういえば、デンマークに買付に行くと、野菜不足を補うようにスーパーでも商店でも果物をたくさん買う。
基本はどこも量り売りなので、いろんな種類を買ってみるのだけれど、日本のように甘い果物は多くない。
リンゴはもちろん、ベリーもみかんも甘酸っぱい。
私はいろんな外国で果物を食べているわけではないけれど、いろんな国々から日本に来る人からそう聞くので、
きっとほかの国、とくに緯度の高い国では同じように甘酸っぱいものではないかと思う。
日本の果物は本当に甘い。研究の成果や技術の進歩なのだろうけれど。
現状に満足せず、よりおいしいものをと求める国民の気質の成果なのか。と書いて、今や果物だけではない事に気が付く。
先日訪れたインドカレー屋ではナンもカレーもとても甘かった。
日本人の口に合うよう研究を重ねたというその店は、連日大賑わいだ。日本人は「甘い=おいしい」なのだろうか。
いやいや、日本人だけでなくきっとどの国でも「甘い=栄養=おいしい」という生理学的なところは変わらないのだろうけれど。
日本では塩っ辛い食べ物が減って甘ったるい食べ物が増えたなぁと、ぼんやり思う。
もっともっとを求めると、甘さももっともっとになるのかなぁ。気が付けないくらいに。
ちょうどいいってどのくらいなのか。そもそもちょうどいいってあるのかなぁ。と頭がぐるぐるしてきた頃、今週も届きましたリンゴの箱。
季節は紅玉からしなのスイートに変わったようで、甘いにおいが箱からもれている。
味も種の形も紅玉の方がやっぱり好みだなぁ、なんて目の前のリンゴに失礼なことを呟きながら。
2014年11月 北の椅子と 服部 真貴
日が昇る時間がうんと遅くなって、つい寝坊した朝も拝める機会に恵まれる。
さぁ、これから始まる!っていうパワーに満ちた空気を身体いっぱいに入れる。
日が昇る数分、頭をからっぽにして眺める。
北の椅子とは工業地域にあり、住まいもその中にある。
日の出は造船のクレーン(通称キリン)の間から、日の入りはビルの向こうへ消えていく。
そんな地域に住んでいるので、道端に生える雑草の移ろいも、店前の大きく育ったいちじくも大切な緑。
そして時には緑の中で深呼吸をしたくなって、六甲山に上がる。
車で登れば20分とかからない近くの山はありがたく、先日は六甲山の中にある森林植物園に出かけた。
息子が保育園から持ち帰るえほんに、「ちいさなかがくのとも」があり、その8月号で雑木林を蝶が樹液を求めて飛び回る話があった。
あの、夏の雑木林の甘いようなすえたような何とも言えない匂いが、鼻先に思い出され、山の中に入りたくなった。
なかなかまとまった時間が取れず、カブトムシの季節も終わってしまった。もう青いどんぐりが落ち始めている。
もう樹液レストランとは出会えないかなぁと、歩いていると・・・
ありました。
蜂が集まる樹液レストラン。蜂がいない隙に鼻を近づけるとやはりちょっと甘いような、酸っぱいような匂い。
微生物などが樹液を分解して、発酵するそうで、どちらかというとレストランというより酒場かぁ。と理解する。
ほろ酔い気分はいい気分。蜂も刺激しなければこちらには寄ってこず、いい気分でどこかへ消えていく。
北の椅子とは酒場ではないけれど、ちょっと一休みすれば、いい気分で帰路につける。
そんな店になりたいなぁと、思う。
2014年10月 北の椅子と 服部 真貴
夏は後半ずっと雨で、各地に大きな災害をもたらして過ぎていった。
色とりどりのトンボが田の上を飛び、日が落ちるのがうんと早くなった。
保育園の帰りに立ち寄る公園は、すでにほの暗く、虫の唄が草むらからきこえてくる。
お盆を過ぎたころ収穫の声を聞き、いそいそと伺った徳島の阿南。
澄んだ海を目の前にした田んぼで丁寧に育てられたお米をありがたくいただいた。
今年はいつもお世話になっている岡部さんが私たちのために減農薬でコシヒカリを作ってくれた。
収穫が終わった田んぼに息子が入り、かえるを追う。水路のメダカを追う。
そして、最後には雨の後の泥の田んぼでひっくり返って喜んでいる。
翌朝、ぴかぴかに炊けた新米でむすんだおにぎりに、鼻を付け、頬張り、また喜んでいる。
「ごちそうさまでした」がいつもより大きく聞こえて、こちらも嬉しくなる。
実りの秋がやってきた。
2014年9月 服部 真貴
この夏は、油断をしてしまっていたのか、あっという間にやってきた。
「あまり暑くならないですね。」とひと月前にはお客さんと交わしていたのに、
「すみません、売り場に冷房がなくて。暑いですねー。」と、まず謝ってしまっている今日この頃。
陰のないところを歩いてお越し下さったお客様にいたっては、吹き出ている汗が、滝のようになる。
暑い中も熱心に家具や雑貨をご覧いただき、好いものが見つかりましたと、笑顔をいただけると
嬉しくもあり、ありがたくもあり、さらに頭が下がる。
メンテナンススタッフは工房でも、配送でも、店での商品の入れ替えでも、大汗をかきながら、家具と向き合っている。
お蔭で、売り場にはメンテナンス済の品も増えてきて、お客様も、そして私も美しいものが並んでとても嬉しい。
その木部の滑らかな曲線や、張り替えられた生地の鮮やかさ、そして、バランスの良いデザイン。
じっくり眺めると、また家に持ち帰りたくなり、汗を拭きながら冷静になれ、と言い聞かせる。
夕方になれば神戸では必ず浜風が吹いて、潮の匂いを嗅ぎながら、なんだかほっとする。
2014年8月 服部 真貴
こちら神戸では雨が降らない梅雨で、店の前の紫陽花が気をつけないとすぐに首を垂れている。
運河ギリギリに根を張る無花果は今年も沢山の実をつけ、鳥たちが賑やかに食べ散らかしている。
6月の後半を北欧で過ごした、北の椅子との買い付けチームは今回初めての取引先も多く、
心配顔で出発したけれど、帰国の顔は晴れやかだった。
これはその収穫の一部です。
40フィートハイコンテナ満載にして、9月の初旬には届くでしょう。
2014年7月 服部 真貴
先月末のこと、主人と息子が実家に帰り、息子が生まれてから初めて一人の夜を過ごした。
ずっと行きたかった、古巣を訪ね、ボスや先輩に力をもらい、阪神高速をとばしている帰りの車の中で小さな音で流れ聞こえていた息子のCDに耳を傾け、今頃彼は夢の中かと時計を見た。
離れていると、よく考えるもので、彼はどんな大人になっていくのかといろいろと想像してみた。
先日、人に勧められて読んだ本に、大人には「意志」と「責任」という要素がいるとありました。
「責任」についてはなるほどよくわかります。責任感のない人を大人とはなかなか呼べず、また、ともに仕事をするとなると、うんざりすることがあるかもしれません。
「意志」については、これ、私自身弱いのです。
たとえば、英語の勉強をもっとしようと何度思ったことか。
もっと小さなことで言えば、目の前の書類箱の整理を毎日ちゃんとしようと何度思ったことか。
もっともっと小さなことで言えば、寝る前に、飼い犬にも「おやすみ」と言おうと何度思ったことか。
でも、そんな小さなことでも毎日続けるには意志がいり、案外難しいものだと。
北の椅子と で出会う人には素敵な人がたくさんいて、私も多くの刺激をもらっている。
その人たちのことを想像してみても、やはり「意志」と「責任」を持ち合わせていると感じる。
家具の選択にも、食事の仕方にも、教室での学び方にも、スタッフの働き方にも届けてくれる野菜の選び方にも、屋根を張るくぎの打ち方ひとつにも。
そして、今三歳の息子はどんな大人になっていくのだろう。
一人思いめぐらせ、また、外で寝いきをたてる飼い犬におやすみを言わずにベットにもぐった。
2014年6月 服部 真貴
スズメが駐車場の軒先に巣を作り、餌はこびに忙しい。
中は見えないけれど、小さく、そして力強い鳴き声を聞き、少し大きくなったかしらと日々楽しみにする。
店の前では先月はまだ素っ裸だった木々が日にひに若葉を出し、もうこんもりしている。
イチジクが青い実をつけ、辺りにみずみずしい甘い匂いが漂っている。
お客さんたちの注文が冷たい飲み物が増えて、今年もまた新生姜シロップをたっぷり仕込んだ。
屋根が焼けて、また暑くなるねと、近所のおじさんがぼんやり天井を見上げて笑う。
北の椅子と の店を開け季節がぐるりと一周した。
おかげさまです。
ほんとうにおかげさまです。
ありがとうございます。
2014年5月 服部 真貴
ベランダがやけに騒がしい。大きな物音に、戸を開いてみると、今年もかけてあった箒が落とされ、つつかれていた。
カラスに始まり、ハトも、逞しいかなスズメも来ている。
ふと犬小屋をのぞくと、気持ちよさそうに丸まる彼はうっすら目を開けた。
我が家のビーグルも12歳となっており、番犬には耳が遠いか、それとも知っていて知らんぷりなのか、春眠暁を覚えぬだけか。
北の椅子と には春風とともに、デンマークからのコンテナがつき、店内が急ににぎやかになりました。
家具のご案内は今月中ごろからになりそうですが、今までしばらく倉庫に眠っていたものも出てきて、ぎっしり。
雑貨は先月末より、新しく到着した物もご覧いただけるようになっています。
しばらく品薄だった人気のシリーズも、レアなアイテムもそろえて机の上も什器の中も2階の売り場はモリモリとしています。宝探し気分でゆっくり手に取ってみてください。
4月を迎え、消費税率が新たになり、いろいろと考える機会となりました。
私たちが買い付けに向かうデンマークでは消費税は25%。所得税においては平均所得の人でも50%。
そのことについて、彼らから不満らしい声をきくこともないわけではないですが、税金のことをきくとどこか誇らしげに話します。
高額納税しているから、出産、育児、勉学、医療、老後に対する心配がないのだよって。
ですが、自動車を取得する時なんて、100から200%もの税金がかかります。
新しいものを生産し、消費することで経済が成り立っているような日本とは、根本的に違う。
彼らが一番の資産と位置付けているものは[人] 。
幸福度の高い国と言われますが、デンマーク人にとってその幸福度は達成感からくるといわれています。幼いころから、目標を常に持ち、
それを達成していく過程に幸福を感じると。
そして、高額の税金の使われ方にも、それを払っていることに対する権利への主張も、声高らかです。
私自身、商いをしている以上、消費を促しておりますし、物が好きで、ものに埋もれて暮らしております。
また、税金の使われ方には関心を持っていますが、自ら声を出すことは選挙投票くらいのものです。
でも、やはり資産と言えば[人]と位置付けます。
北の椅子と は[人]が豊かになる物や空間を提供したいと思います。
私たちが扱う家具や雑貨が、50年の時をこえて、新しい暮らしに迎えられたその先を。
喫茶に足を運んでくださる人々が帰途につく足取りを想いながら。
2014年4月 服部 真貴
土の下で虫たちが動き始めた音が聞こえてくるような・・・そんな季節となりました。
春が近づくと、ちぢこまっていた身体とともに、ふんわり耳も開いてくるのか、いろいろな人の声が聴きたくなります。
新しいことや、気になっていたことを学びたい、そんな頃。
もちろん、家具屋ですから、家具の事にも興味があるのですが、
店で、家での毎日の食については常々、興味を持って見聞きしています。
食と言えば作り方とか、盛り付け方とか、学ばないといけないことは山のよう。
でも、今一番学びたい、学ばなくてはと思っているのはその素材について。
農薬や除草剤が、農作物やそれが育つ土や、しみこんでいった水に与える影響を。
添加物がなぜ使われて、それが体にはどう反応するのかを。
遺伝子組み換えの作物が家畜や人に与える未来を。
まだまだ勉強中。
知れば知るほど恐ろしくもなりますが、
先日スタッフと、その友人や家族も招いて囲んだ昼食兼研修会で
「知ったうえで選びたい」
という意見が出て、本当にその通り!と。
店を作るときに、ヴィンテージ家具屋にプラスして、「ゆっくり北欧ヴィンテージの空間を味わってほしい」
「地域にも開いた店になりたい」という思いから喫茶コーナーを併設しました。
店を作る前から食に興味がなかったわけではないのですが、店で多くの方々に提供をするようになった今、
ますます関心高く、耳を澄ましています。
食についてはまだまだ私が語れるものは持ち合わせておりませんが、
「北の椅子と」でゆっくりとしたひと時をお過ごしいただく中で、澄ました耳に届く何かを語れるようになろうと
春の光に頬撫でられながら思うこの頃です。
そろそろ、散歩に良い日和も増えてきました。
是非和田岬へもお出かけください。お待ちしております!
2014年3月 服部 真貴
窓から、春の光が優しく差し込むようになりました。
この光を私たちより、より待ち焦がれ、大切にする北欧では、特に春先に窓の側に光を受けてきらきらと光るガラスの
オブジェが飾られているのをよく目にします。
そして、私も春には色のついたガラスのものをおくようになりました。光の強さで、表情が変わって見えるその緑色のガラスは、もう春が来ていることを私に教えてくれています。
1月の初旬にデンマークに向け出発した買付隊は、寒さが厳しくなる前に帰国し、極寒の北欧をまのがれたようです。
とはいえ、朝遅くに上る太陽は、いつも降り出しそうな重い空に光を遮られ、ずっとすっきりしないお天気。
神戸に戻った二人は、何よりも晴れ続きのお天気に喜んでおりました。
そして、只今輸入・コンテナ受け入れの準備が進んでいます。
3月下旬には届くそのコンテナの中身を少しご紹介いたします。
自慢の椅子はやっぱり200脚を超えて買い付けられているようです。 本当の春が待ち遠しい、そんな2月です。
2014年2月 服部 真貴
予定を早めて、年始早々に買付隊がデンマークに向け出発しました。
なんとか、1月末お届け予定分までのメンテナンスを終わらせ、年末年始の休暇も取らず、バタバタと出てゆきました。
シーンと静かになった工房をのぞいてみると、ホワイトボードに書かれた行程がびっしり。所狭しとメモも書かれ、 メンテナンスチームでない私から見ると、何のことやらさっぱりわからない記号のようなものも。
北の椅子と に並ぶ家具は 60年代を中心とした北欧家具。
60年代と言えばもう50年ほど時を遡ることになり、ひとつひとつの家具にしっかりとストーリーが刻まれています。
今回、私は買い付けを主人とスタッフに任せ、こちらの店を開けるべく、お留守番なのですが、
現地で家具を選ぶときには、ついつい妄想が膨らみます。
現地倉庫で初めて会う、それぞれの家具は、こちら日本の店頭に並ぶときよりももっとそれぞれの前歴を語ろうとします。
ひきだしを開けると、前の持ち主のちょとした出し忘れの品が残っていたり、
窓辺におかれていたのか片面だけ日に焼けていたり、同じコップの形の輪染みが何個もついていたり。
例えばこんな風
このデスクは引き出しに青いインクあとが沢山、きっと手紙も書類も万年筆でしたためたおじさんは
ちょっと慌てん坊でインクのキャップをしっかり締め忘れることが多かったのかも。
右上の引き出しの鍵穴の周りは沢山傷がついているから、大切なものをしまって、ちゃんと鍵をかけておいたのね。
デスクの右上には輪じみも多いから、仕事はドリンク片手にじっくり進めるタイプかしら。
デスクの裏側の書棚は日に焼けていないし、キズも多くないから、ぎっしり本を詰め込んでいたのかも。
とここまでは事実に基づく空想。
そして、この人の職業は…探偵?弁護士?文筆家???
と、もくもく妄想に入ってしまうのです。
お客様にはそんなストーリーも含めて、店頭では家具をご覧いただき、
お届けする前には、きれいに、できるだけまた長くお使いいただけるようメンテナンスいたします。
ばらせるだけばらして、サンディングし、塗装して、仕上げ剤を重ねます。
削って、塗って、乾かして、塗って、乾かして、塗って、乾かして、塗って、塗って、塗って・・・・
がたつきや不具合の調整や、メンテナンスに入ってみたら、中のボルトが腐りかけている…なんてこともあり、
オーダーいただいてからしばらくお時間いただき、50年間の垢をぬぐいます。
そして、お客様が再度対面された時からは、お客様とともにまたよき時を刻んでいただきたく、
いってらっしゃいの気持ちで見送ります。
新しい家具にはもしかしたら要らないアフターケアや、毎日お使いいただくときに頂くちょっとした気遣いが必要なのも、
この家具の良いところだと思っています。
人も物も、お互い様があると長く付き合える。
新しい暮らしの中で、どんな顔して居座っているのか、ときどき覗きたくもなる、そんな思いで、「いってらっしゃい!」
2014年1月 服部 真貴